日本ロシア語教育学会会員の皆様
日本ロシア語教育学会初代会長の横井幸子先生(2021.7-2025.12)の後を受け、会長の重責を担うことになりました臼山利信です。微力ではございますが、前会長の路線を引き継ぎ、中でも高大連携教育活動を重視する方針を継続し、本学会の発展に少しでも貢献できるよう最善を尽くす所存です。
本学会は、20年間に及ぶ、前身組織である日本ロシア語教育研究会(2000.11-2021.7)の伝統を有しております。その伝統とは、ロシア語教育に携わる大学の教員・職員、高等学校で教鞭を取っている先生方、日本在住のロシア語話者の子どもたちのための継承語教育・バイリンガル教育に取り組んでいる方々等が、あるときは独自に、またあるときは緊密に連携して実践と理論の両面からロシア語教育の諸問題の改善・解決に取り組み、それらの研究成果を発表し合い共有していることです。したがって、これからも本学会は、良き伝統を守りながら、日本と世界のロシア語教育の実践と理論を含む多種多様な研究の成果を発表できる場をしっかりと提供して参ります。
1991年の大学設置基準の大綱化以降、日本の第二外国語教育全体が長期的に縮小している中で、遺憾ながらロシア語は第二外国語の中でも選択されにくい位置にあります。また2020年以降、ロシア語教育の現場では、国際情勢の影響などさまざまな要因によって、高等教育と中等教育のいずれにおいてもロシア語履修者数がコロナ禍以前の状況と比べて相対的に縮減していると私は推測しています。
一方で、AI時代の本格的な到来によって、また言語系学術団体等の長期的かつ持続的な多様な外国語教育の推進活動等によって、日本の小中高大の教育機関や個人学習のレベルで、ロシア語を含む多様な外国語を学ぶ潜在的な価値が再認識され、今後逆に高まっていくことが予感されます。
以下は、2024年度に本務校で初修外国語としてロシア語を履修した学生たちの選択動機の一部です。
例:シベリア鉄道、ロシア文化、中央アジアの文化、ロシア文化とアイヌ文化との関わり、古代末期~中世のロシア正教史、ロシア語の言語的特徴、寒冷地の農業研究、ブルガリア語とロシア語の関係、ロシア文学、キリル文字で読むこと、旧ソ連諸国を中心としたヨーロッパ政治、ロシア音楽、カザフスタン研修での必要性、ウズベキスタン留学での必要性、ロシアの数学者の文献を読むことなど
このようにロシア語選択の動機はさまざまです。ただロシアへの興味だけが必ずしも履修動機となっているわけではありません。ロシアを含む旧ソ連諸国等への興味が動機となっているのです。実はこの点が非常に大切で、私は、従来の「ロシアにアプローチするためのロシア語教育」から「(ロシアを含む)ロシア語圏諸国・地域等にアプローチするためのロシア語教育」に発想を転換する必要があると考えています。そのパラダイムシフトこそが現在の日本のロシア語教育の相対的な縮減傾向にブレーキをかけ、日本の新しいロシア語教育のあり方へとブレークスルーできるものと確信します。
私は、在任期間中に、以下の3つの方針を掲げ、それらを強力に支援することで、本学会に貢献したいと願っています。
| 1. | 総合的なロシア語圏諸国・地域・ディアスポラ研究、すなわち、広い意味での中央ユーラシア地域研究の一助としてのロシア語教育研究を推進する。 |
| 2. | 「(ロシアを含む)ロシア語圏諸国・地域等にアプローチするためのロシア語教育」に相応しいロシア語教材開発研究の組織的な取り組みを推進する。 |
| 3. | 生成AIとフィジカルAIが人間社会と人間の生活に深く浸透していく時代を本格的に迎え、従来のロシア語教授法とロシア語教材をAIの利活用の観点から注意深く再検討し、ロシア語教育の伝統と教育イノベーションの両立を模索しながら、大学と高等学校のロシア語教育におけるAI for Russian Language Education研究を組織的に推進する。 |
最後に、本学会は、2024年12月に日本学術会議協力学術研究団体の指定を正式に受けました。日本の公的な学術団体の一つとしての責任感を感じながら、日本の科学者コミュニティの発展に少しでも寄与していきたいと思います。
日本ロシア語教育学会会長 臼山利信